ときどきたび

海外女ひとり旅が大好きな40代アラフォーのブログ。旅行記と旅の情報など。家族旅行についても。のんびりときどきたびにでたい。

ビートルズを知らないわたしの、ビートルズだらけのリヴァプール

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もう正確な日付が思い出せないくらい昔の旅の話

昔はバイトを掛け持ちし、お金が貯まればちょくちょくイギリス貧乏旅行に行っていた。なかでもイギリスのリヴァプールには10回近く行ったことがある。

リヴァプールでのわたしの一番の目当ては美術館だ。アルバートドックのテートギャラリー(Tate Gallery/ロンドンの分館。近代や現代の作品が多い)、市街中心部のウォーカー美術館(Walker Art Gallery)、マージ―川の対岸のポートサンライトにはレディリーバ美術館(Lady Lever Art Gallery/ユニリーバ社の創業者の美術館)。ウォーカーとレディリーバには日本にはあまりないラファエロ前派の絵画が多い。

他にはウォーカー美術館の隣には国立博物館(National Museums Liverpool)があるし、二つある大聖堂はどちらも美しい。サッカー(Everton)を見に行ったこともある。

 

リヴァプールは商業と工業の都市で、わたしの印象ではマンチェスターよりすこしコンパクトな街だ。マージーサイド(マージ―川沿いの港湾地区)には大英帝国繁栄時代から現代まで、さまざまな年代の建物が並んでいる。建築デザイン本で読んだ作例みたいな建物がそのまま街にある。

特にアルバートドック隣のピアヘッドにあるデザインの異なる三つの建物『スリーグレーシズ/Three Graces』はとてもきれいだと思う。この記事のトップ画像は初めてリヴァプールに行った20年以上前に撮影した写真だけど、いまでも気に入っている。

 

タイトルにあるとおり、わたしはビートルズを知らない。曲は知っている。CDも家にはある。でもその程度なのだ。なのでアルバートドックに行っても行くのはマージーサイド博物館とテートギャラリーだけで、ビートルズの博物館には行ったことはない。導入がちょっと長くなったけど、わたしがリヴァプールに持つ印象はそんな感じだ。

 

「ペニーレーンはそっちじゃないよ」

と声を掛けられたのは、ちょっとさびれているけれど、それなりに商店が並んでいる通りだった。リヴァプール近郊に住む知り合いに会いに行き、そこから街に戻るのにバスがなかなか来なかったので歩いていたときのことだ。

「ペニーレーンはあっちだよ」

振り返ると、杖をつき買い物袋を持ったおばあさんがこちらを見ていた。

「ペニーレーンって、なんですか?」

『レーン』というからには通りの名前だということは解った。でもそれ以上はわからない。地図は鞄の中だったし、けっこう郊外にいるので、どうせろくに情報はないだろうと思い込んでいたのだ。

「あなた、ビートルズ見に来たんじゃないの?」

なぜかものすごく驚かれた。イギリスのお婆さんはロングスカートが多い。このお婆さんもワインレッドのロングスカートで、ベージュのカーディガンを着ていた。

「違います。ここから駅まで歩いて行こうと思ってて」

「あらまあ。駅まですごく遠いから、バスに乗りなさい。女の子はこの辺をひとりで歩いてはだめ」

あらまあ、は正確には「Oh, Dear」だ。イギリス人女性にはこの言い回しをする人が多い。言い方ひとつで「あらまあ」にも「まぁ!」にも使える。

おばあさんはわたしにバス停の場所を教えると「気を付けてね」と言って去って行った。地元の人が歩かない方がいいという場所は本当に危ない場所だ。たしかに赤茶色のさびれた商店街はお世辞にもきれいとは言えないし、一歩奥に入る勇気もでない。ちなみにわたしが当時「女の子」と言われていたのはお世辞ではなく、アジア系は若く見られるだけだ。

しばらくそのバス停で待って、駅行きのバスに乗った。

 

終点の駅までの切符を買ったけれど、どこで降りようか。ちゃんと駅まで戻ろうか?と悩んで地図を広げたら、隣の席のおばさんに話しかけられた。

リヴァプールに旅行?どこから来たの?」

「日本から来ました」

「ずいぶん遠い場所から来たのね!ようこそリヴァプールへ。わたし、若いころ働いていたレストランにポール・マッカートニーが来て握手して貰ったことがあるの

なんでこの人、突然わたしに芸能人と会った話をしてくるんだろう?と思いながらも差し出された手を握り返す。一人旅をしていると、時々すごくフレンドリーな人に会う。犯罪者っぽい人もいるし、商売人もいるし、本当に善意の人もいる。だけど芸能人にあった話をいきなりされたのは初めてだ。

英語でうまく返す言葉が思い浮かばず、「わたしポール・マッカートニー、知ってます」とか答えると、前の席に座っていたおじいさんが振り返った。

「わたしはジョージ・ハリスンと会ったことがあるよ!」

誰それ?

おじいさんはにこにこと嬉しそうだ。その時のわたしは本当に誰のことだかわからなかった。通路を挟んだ席にいるおじさんも大声で話しかけてくる。

「わたしもビートルズは全員見たことがあるよリヴァプールの人間なら、みんなビートルズのパレードを見ているからね!」

ここで察しの悪いわたしでも、さすがに、ようやく、理解した。
この人たちはわたしを、『ビートルズ目当てで遠路はるばる極東の地から一人でやって来た女の子』と思っていて、それでわざわざビートルズの話を振ってくれたのだ。

そういえば先ほどのおばあさんが言っていた『ペニーレーン』もビートルズの歌にあった気がする。教科書にはニューヨークの写真が載っていたと思ったけどリヴァプールにもあったのか!(あとで確認したら教科書に載っていたのはストロベリーフィールドだった。そしてリヴァプールが本家だった)

というかビートルズって今でもそんなすごいのか。(すごいのです)

いや別にわたしファンじゃないんだけど、どうしよう。どう答えるべきか悩んでいるうちに、おじさんもおじいちゃんもおばちゃんもどんどん話を進めていく。

「ポールはチップもたくさんくれたの。本当に格好良かった!」

「わたしもジョージと握手したんだ」

「パレードの時もすごかったんだよ。リヴァプール中がお祭りだった」

みんな早口で、もうわたしのヒヤリング能力では聞き取れない。でもみんなにこにこしている。おばさんにうながされ、信号待ちのタイミングでおじいさんと握手をする。

となると、少ししか英語が話せないわたしにできることは、たったひとつしかない。

「すごい!ありがとう!!」

 

結局終点の駅でバスを降りた。なんとなくもうどうでも良くなって、街を歩くことにしてみたのだ。

最初に書いた通り、わたしはリヴァプールの美術館博物館ばかり行っていたため、あまり街の繁華街は歩いたことがない。知り合いに会いに行くときから思ってたけど、リヴァプールはイギリスにしては珍しく街並みがわちゃわちゃとしている。店の看板の色がうるさい。いろんな人種の人が歩いている。

田舎もいいけど都会も面白いなーと思いながら、とりあえず何か面白いものを探すため観光案内所でも行ってみるかとベンチに座って地図を広げた。先ほどのバスでは結局ろくに地図が見られないままだったのだ。

イギリスには各町に「i」マークのインフォメーションセンター(観光案内所)がある。観光案内所にはその町や近郊の見どころ情報が集まっているし、当日でも宿の予約をやってくれるし、お土産だって売っている。個人旅行の観光客なら絶対に訪れたほうがいい場所だ。わたしはスマホのGPS対応地図を見ていても迷う人間だ。スマホがない時代には必ず現在地を確認し、落ち着くためにも座って地図を見る必要があった。

「どこに行きたいのかな?」

現在地はどこだと地図を睨んでいたら、お巡りさんが声をかけて来てくれた。若くがっちりしたお兄さんだ。イギリスのお巡りさんは帽子に市松模様が入っていて格好いい。

「インフォメーションセンターに行きたいです」

「それならこの看板のとおりに行けばいい。キャバーンのそばだよ

お巡りさんが指差した交差点の看板には「キャバーン&i」と書いてあった。なるほど、わたしはマークを見逃していたらしい。

「ありがとうございます!でもキャバーンってなに?」

「きみ、日本人だよね?」

「はい!」

イギリスには香港出身者が多いせいか、東洋人を見て日本人だと思われることは少ない。お巡りさんがわたしを日本人だと思ったのは、それはつまり、この街で道に迷うアジア人=日本人が多いということだ。

そして日本人がこの街に来る理由は…

ビートルズ見に来たんじゃないの?!」

お巡りさんに大声で驚かれて、さすがに大声で返した。

「ノォー!」

 

このあと何故かお巡りさんには大笑いされた。そしてやはり「気を付けてね」と見送られ、わたしは無事インフォメーションセンターにたどりつけた。インフォメーションセンターのある路地に入る前から周囲はビートルズまみれ。たくさんの観光客が居た。お土産物屋の前を通る時は、「ビートルズお土産あるよー」と日本語で声をかけられるくらい凄かった。

キャバーンがビートルズの聖地のひとつだと知ったのは、宿に戻り部屋で地球の歩き方を読んでからだ。ペニーレーンも聖地だった。

というわけで、わたしはビートルズを全然知らないけれど聖地巡礼をして、ポール・マッカートニージョージ・ハリスンと握手した人と握手をした人間なのである。

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わたしの人生史上、一番嘘みたいというか、ギャグみたいな体験が続いた旅の昔話です。会話はこんな言いまわしだった、というニュアンスで書いています。そもそも語学力が低いので本当にそう言ってたのかも怪しいです。

別の機会にリヴァプール出身の人と会ったとき、その人もポール・マッカートニーと銀行で会ったことがあると話をしていたので、ビートルズは本当にリヴァプールの人から愛されているんでしょうね。

ここまでお読みいただき、ありがとうございました。